「こ…これは…すごいね…」
「何か…オレが想像してたのとはちょっと違う感じだ…」

浴漕に張った湯は、粉末をサラサラと落としこむときれいな紫がかった赤に染まった。
今泉が取りだした入浴剤は、ローションやコンドームなどの必需品をネットで購入した際にオマケに
ついてきたものだという。

それはいいのだが、風呂桶でかき混ぜているうちに劇的な変化が起こった。
湯は徐々に粘度を増し、やがてそれが粒々の細かいゼリーへと変貌してゆく。
そう、これはゼリー風呂の素だったのだ。
普通に入浴剤として使ってもいいのだろうが、そもそも購入した物を考えるにある種のラブグッズ
なのだろう。

「ぶどうゼリーみたいな色だけど、香りはもっと甘酸っぱいねー」
「ベリー系って書いてあんな。木いちごか…?」
パッケージの写真をまじまじと見ながら今泉が言う。その間にも坂道は面白そうに手でゼリーを
すくっては感触を確かめている。
(こいつはオタクのせいか、変に好奇心旺盛なとこがあるからな…)

「入ってみろよ、坂道」
「ええ、今泉くんも一緒に入ろうよ!」
腕を引かれ、口元が緩んだ。一緒に遊ぼうよ、とでも言うような無邪気な口調だが、坂道もいくら
何でもこれがエロい使用目的の商品なのは分かっているだろう。

手ですくったゼリーはさらさら粒々していたが、足から入ってみると何というか、みっしりと詰まった
中にずもももも…と入っていくような感じだ。
今泉も徐々に浸かっていきながら、未知の感触にとまどっていた。

「結構…密封されてる感じすんな」
「ていうか、こう…粒が体に吸いついてくるような気しない…?」

一度肩まで浸かってから半身を出した坂道を見て、今泉はウッと言葉に詰まった。
ほとんど毎日自転車に乗っているのにあまり日焼けしないしなやかな体に、赤紫のゼリーの粒が
まとわりついて光っている。
坂道の胸元からへその辺りへとろっと伝ってゆくゼリーを、脳に焼きつける勢いで見てしまった。
なんというエロさだ。ヤバイ。色がまた大問題だ。

だが、坂道もぼうっとした目つきでこちらを見ているのに気づき、自分の体もどっちもどっちな
エロい有り様だと分かってしまった。
「な…なんか結構エッチだねこれ…」
顔を赤らめながらそう呟くから、おまえにそんな事言われてオレが何もしないでいられるかと、
責任を坂道に丸ごと投げつけたくなった。
(ゼリーまみれとか食っていいって事に決まってんだろ、常識的に)

ひどい個人的解釈をくだした今泉は、入浴剤のパッケージ裏の注意書きを坂道に見せてやった。
「刺激的なゼリーで彼の体を隅々までマッサージしてあげてください、って書いてあんぞ」
「!!マ…マッサージ…ですか」
坂道はドキドキした。今泉とは何度も抱きあってきたけれど、こういう物を使うのは初めてだ。


腰に腕が回り、少し引き寄せられる。
今泉は坂道の表情の変化を見つめながら、大きな掌にたくさんゼリーをすくって、喉元、肩、胸元
へと塗りつけるようにしながら触れてきた。
「……ぁ、いまいずみ…く…」
手で触られるのとは違う。暖かく柔らかな粒々は肌を滑り吸いつき不思議な刺激をもたらしてくれる。
それは決して強いものではなかったが、体の内側からふわっと悦くなってくる感じだった。

オレにもしてくれよ…と低く耳元で囁かれ、考えるより先に手が動いた。
今泉よりも手が小さい分、何度もすくっては彼の肩や胸になすりつけ懸命に愛撫する。
紫がかった赤の柔らかな塊が今泉の体をとろとろ流れる様子に興奮した。隅々までマッサージ…
という言葉を思い出し、肌に細やかに指を滑らす。

「…っ さかみち…」
彼の声が次第に甘さと熱を帯びるのを聞くとたまらない気持ちにさせられた。
おんなじ。今僕らおんなじ気持ち良さを感じてるんだ…と嬉しくなり、ゼリーまみれの体同士を自然
と擦り寄せるようにしながら抱きしめてしまう。

たっぷりと透明な赤紫の粒をまとった胸を触れ合わせ、今度は互いの背中にも手を回してぬるぬる
となすりつけた。クチャ…クチュ…と粘着質な音が昂ぶりをさらに助長する。
湯に半身浸かっているせいで汗もかいていた。浴室にも身体にも熱が満ちてゆく。
快楽の曲線が緩やかに、だが確実に上向いているのが分かった。
こういうの使って皆エッチするのかぁ…と、ぼやけた頭で坂道は感心した。


だが体を密着させているうちに、浴漕に浸かり既に勃ちあがりかけていたペニス同士が思いがけ
ない感じにぐりっとぶつかり合ってしまった。
「ひゃぁ…っ」とかん高い声をあげながら、坂道は今泉の体にすがりつく。

ここまで直接的な部分には触らずにいたのだ。
出会い頭の事故みたいな接触に、頭の芯まで鋭い快感が抜ける。
今泉もとっさに奥歯を噛みしめこらえたが、先端から先走りが漏れたのを感じた。
ふー…と息を吐きながら、危うい余韻を何とかやり過ごす。

「悪い、大丈夫か坂道…」
なだめるように背中を撫でてやると、「だ…だいじょぶだけど…ちょっと出ちゃった…お湯汚しちゃっ
た…」と涙目になっている。
え?と透明だが見通しにくくなっている湯の中を覗くと、ほんの少量だが白く濁っていた。
「ああビックリしたんだろ。オレもヤバかったし気にすんな。どうせ後で流すんだ、中で出したって
構わねーよ」
「……ぅん」

坂道としては粗相をしたようでいたたまれなかったが、恥ずかしいのは気持ちいいと連動している
からまた始末におえない。
体はじんじんと疼きを増すばかりだ。欲張りでわがまま。自分にこんな部分があるなんて思いも
しなかった。この人と触れ合うようになるまでは。

(なんかまだ…今泉くんとくっついてたい…)
ここでやめてほしくないなと思った。せっかく今泉から 『遊ぼう』 と誘ってくれたのだ。
言葉にできない分、思いを込めた潤んだ目で見れば、「今度はそっとするから」と恋人は笑って
くれた。それがたまらなく嬉しい。


浴漕の中で膝をついて、お互いの身体をまたぴたりと重ねていった。勃起したものは手で丁寧に
導いて触れ合わせ、その熱さに満足の吐息が漏れる。
「今泉くんの…すごく熱くなってる…お湯よりもっと…」
「おまえのもビクビクしてんぞ…まだまだ元気みたいだな」
「……こすって」

かわいい事をねだってくる坂道に、今泉は噛みつくようなキスをした。唇を舌でこじ開け、相手の
感じやすい場所へ押し入る。
脅えて引っ込もうとする坂道の舌先をねぶり、欲しがって差し出してくるまで許さずにいると、よう
やくおずおずと自分からも絡めてきた。

何度繰り返しても初心な感じが抜けない。その度に愛しい、と思う。
柔らかく舌を吸うと、抱いた身体がビクンと震えた。坂道の受けた感覚が今泉にもダイレクトに返っ
てくる。
口端から零れる唾液も舐め取り、全部寄越せと言わんばかりの目で見つめた。
坂道の中で理性がとろりと崩れ出したようだった。今度は今泉の舌を進んで迎え入れ、味わうよう
にしゃぶってくる。

たまに角度を変え、漏れる熱い息まで奪いつくすように口づけながら、腰を揺らし手で互いの欲望
を昂ぶらせていった。
ゼリーの中ではやはりどうしても滑る。
いつもみたいに上手くしてやれねーな…と今泉は思ったが、手の小さい坂道の方が先にコツを
つかんだ。
無理に擦ろうとはせず、湯の中でゼリーを塗りこめるようにペニスを愛撫してくる。敏感な先端に
粒々をなすりつけられ、快感に呻き声があがった。

「今泉くん…これすき…?いい?」
「ああ、すげーイイ…おまえの方が上手いな。もっと…」
してくれ、と耳から犯されるような上ずった声で言われ、ぞくぞくした。坂道はもうためらわず両手を
使い、二人分を丹念に愛し始める。

少し辛そうにハッハッと荒い息を吐く今泉の顔がすぐ近くにある。
いつもは清烈な印象の彼が自分だけにこんな顔を見せてくれると思うと、幸せでならない。
甘酸っぱい香りにむせ返るような浴室。眩暈のするような時間。
友達だけじゃない。恋人になれたから今泉とこんな風に求め合える。
(すき…大好き……もっとって言われたい。欲しいっていっぱい言って)


自分よりも今泉を感じさせるのを優先して、裏筋のあたりをたっぷりとゼリーの粒で刺激した。
どちらのモノの先端も、自分たちが漏らした先走りにぬめっている。
だが達するには少しばかり強引さが足りなかった。とろとろと脳を溶かすような気持ち良さばかりが
続く。

それに気づいたのだろう。今泉は下肢への愛撫を坂道に任せて、腕の中に細い体を抱き込んだ。
背中にまたゼリーがかけられる。上から下へどろっと流れ落ちる感触。
それと一緒に背骨に添って今泉の指がゆったりとマッサージしながら降りてくると、突然坂道の
性感につよく火が灯った。
手の中の自分のペニスがびくんっと震えあがるのが分かる。

「あ…ぇ?なに…これ…」
とまどったように今泉を見上げるが、「大丈夫だ、怖くねーからな…」と子供をなだめるような声で
囁かれた。
同時に彼の右手の指がいつの間にか後ろを探り撫でているのに気づいて、息をのむ。
背中と同じように入口をゼリーで優しく細やかに刺激されて、そこが生き物のようにひくつくのを
感じた。

指先だけ浅くくちくちと出し入れされると、じれったさに涙が浮かぶ。
さっきしたからまだ柔らかいのに。指ぐらいすぐ入れても平気なのに。欲しい、欲しい、はやく入れ
て…と恥ずかしげもなく腰を揺らしてねだる。
それが重ね合わせているペニス同士を擦り合わせる事にもなって、「おまえエロすぎ…」と今泉は
喉奥で笑った。

そのままつぷり…と指を挿し入れてみると、中は火傷しそうなぐらい熱く熟れていた。
ずっと湯に浸かっているせいもあるだろうが、そっとかき回してみるときゅうきゅう吸いついてくる。

「ぁ…あっ…だめだよぉ…あんまり動かすと…」
「こっちもイイだろ…?前に見つけたとこ…」
また背骨の辺りを指にゼリーをまとわりつかせながら撫で上げ、撫で下ろす。
坂道は堪えきれないような嬌声をあげて額を今泉の胸に擦りつけた。や、やだ…と頭を振るが中が
うねる。感じきっている。

以前、戯れに背中にキスしたり舐めたりを繰り返しているうちに、背骨に添った場所が妙に反応が
良くて、おかしな所が感じるんだなと思ったものだった。
だが坂道を気持ち良くさせるのが好きな今泉は、新しく見つけた性感帯をたっぷりと可愛がる。
同時に中で指を少し曲げて、熱いぬかるみをグチュグチュとかき乱した。

「あ、あぁ…っん、や、今泉く…そんなしたら…溶け…溶けちゃう…」
ちょうどペニスの裏側にあたる坂道の泣きどころを今泉の指がこりこりといじり出した。それだけで
もう体の全部がぐずぐずに溶け落ちそうになるというのに。
湯に浸かったペニスをいじる自分の手も止まらない。背中の感じる部分もまだ今泉の好きにされて
いる。

「坂道…坂道、ちゃんとオレを見てろ」
「いまいずみくん……?」
体中から受ける快楽を逃せず涙の溜まった目をあげる。全部が溶けるほど熱いと思っていたのに
恋人の射すくめるような眼差しの熱が一番高かった。

胸の奥が震える。ああ、このまま、見ていたい、見ていて。
(奥の奥まで僕を見ていて)
全身にさざ波がたつ。もう戻れないと知って今泉がくれるすべてに身を任す。声が漏れる。いつの
間にか中をかき回す指が二本に増えている。

「……は…あ、ぁぁ…っん、だっめ…広げちゃやだ…」
「中、すげー柔らかいし大丈夫だ。痛くないだろ」
「いたくな…ふぁ……でも…はいってくるよ…ゼリー…」

今泉の指がまとわせた少量の柔らかな粒に中の感じる所を撫でられた。ぬるぬるつるつるとして
いて、へんな感じ…と訴えるといいから気持ちよくなっちまえと耳に吹き込まれる。
そのへんな感じが気持ちいいのだと理解した瞬間、理性が壊れる音がした。
押し寄せてくる快楽の波にさらわれ揉みくちゃにされる。溺れる。足元すらおぼつかなくなる。自分
をどうやって支えていいか分からない。

「きもちいぃ…きもちい…今泉くん…今泉くん……」
あ、あ、あ、と声があがる。間断なくとまらない。
激しく抜きさしされる二本の指はゼリーに沈んでいるから聞こえないけれどきっと耳を塞ぎたくなる
ような音をたてているのだろう。

今泉の形のいい唇が耳を食んだ。舌がつうっと耳殻を這ってゆくぬめった感触。
ふぁ…と声をあげ坂道は、中をこりこり押し上げてくる指のせいで張りつめきった自分のペニスを
絞るように手を蠢かせた。
もうだめ、と思うと同時、強烈な衝動に我をなくす。
「や…ぁ……っ、あ、あっ…だめ、も……あああぁ…っっ」
重く密度の濃い赤紫のゼリーの中に、坂道は震えながら精を放った。
いつもと違うシチュエーションに興奮していたのか、指を動かすとまだ少量の精液がとろとろと漏れ
出す。


少しして、今泉の手が優しく髪を撫でてくれているのに気がついた。
ようやく絶頂感が凪いできた坂道はぼんやりと今泉の腕の中に収まっていたが、突然ある事に
気づいてしまい内心で青ざめた。
(どうしよう!また僕だけ一人でいっちゃったよ…!今泉くんまだだ)

途中から自分がいく事に集中してしまったのだから、今泉が達しているわけがない。
どうしようどうしようどうしてあげたらいいのかな口でする?でもこんな明るいとこで!?いやいや
そんなためらってる場合じゃないよ僕!とぐるぐる考えまくる。

その時、坂道…とためらいがちに今泉が耳元で名を呼んだ。
短い湿ったままの髪を指で梳きながら何か考えていたようだったが、やがて思いきったように告げ
られる。
「…もう一回したい…おまえん中入りたい……ダメか」

掠れた熱い声が何を自分に求めてきたのか。それに坂道の胸はぎゅうっと引き絞られた。
(欲しいって…今泉くんがもっと僕を欲しいって言ってる…!)
うわっと歓喜に全身が湧く。
ばかばかそんなのダメなわけないのに。なんでわざわざ聞くのかな?したいようにしていいのに
今泉くんはいつだって僕に優しいんだ、と涙が出そうになってしまう。

がばっと顔をあげた坂道は、驚いた顔の今泉に向かってきっぱりとした口調で言い切った。
「今しよ。ここでしよ。すぐにしよう今泉くん!」




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