「今泉くん、折り入ってお話があるんですが」
「……?なんだよ?どうした」

週末、今泉の父親の方の実家で何かあるらしく、両親と妹が揃って出かけたから泊りに来いよと
誘われた。
二人は普段一緒にいる時間は多いけれど、恋人としての時間はあまり持てない。
だから坂道は大喜びで今泉しかいない広い家へやってきた。
これは先日来準備していた事を試す絶好のチャンスだ!とも思った。努力する者には神様は
ご褒美をくれるのである。

大きな自分のベッドに何故か正座をしている坂道を、濡れた髪をタオルで拭きながら、けげんそう
に今泉は見やった。
夕飯も食べたし、風呂にも入った。
ここから愛し合う恋人同士がやる事といえばひとつであろう。

学生の身でラブホなど行けるはずもないし、お互い家には家族がいる。
だからゆっくり抱きあえる機会はなかなか得られなかった。
それでも今泉は坂道に触れたかったし、坂道も同じ気持ちでいてくれるようだ。
今日のようなチャンスはめったにない。
平静そうな顔を装ってはいたが、今泉は今夜、坂道を可愛がりたおすつもりでいた。

自転車に乗れなくなったら困るからそう何度も挿入はできないが、別にそれだけがセックスじゃ
ないと思っている。
今泉は坂道を気持ちよくさせる事が好きだった。
大きな瞳が快楽に潤むのも、指先で背中にすがりつくようにされるのも、甘い声で名を呼ばれる
のも、自分が射精するだけでは得られない充足感を与えてくれる。

それもこれも、お互い好きな相手とするからだ。
だから今日という日まで、今泉は坂道に不満など持っていなかった。
むしろ多大な負担をかけているのだから、自分が励むのは当然と考えていたのだが。



「えっと…今泉くんはマグロって知ってる?」
「この状況で言い出すって事は魚じゃねーんだろうな。一応知ってるぞ。セックスん時何もせずに
寝転がってるだけのヤツのことだろ」
「そう!そうなんだよ。僕最近そういう言葉があるって知ってね、すっごく反省したんだ!」

何が始まったんだ…と今泉は困惑したが、坂道は拳をぐぐっと握る。
「僕、今までまさにそのマグロだったと思って。いっつも今泉くんが色々してくれるのに、自分も
お返しすることを思いつかないなんて絶対良くないよね!」

いくら不慣れだからと言って、今泉が愛撫したり抱きしめたりキスしたり噛んだり舐めたり吸ったり
含んだり愛しげに見つめながら好きだと言ったりしてくれるのをボーッと受け入れていた自分は
とても怠慢だった。
不慣れなのは今泉も同じなのだ。
それなのに彼は、「まあ要するにおまえが気持ちよくなるとこを探せばいいんだろ」と言って、抱き
合う度に坂道のいいところを探してくれた。
『開発』 と言うらしい。エッチの世界も知らないことがいっぱいだ。

「いや…おまえも分かってると思うけどな、オレはおまえを気持ちよくさせるのが好きなんだよ。
マグロだなんて思ってねーぞ」
「今泉くん、優しい…!」

何と優しくて人間の出来た人なんだろう、こんな人が僕の恋人になってくれたなんてまさに奇跡!
この日のために特訓を積み重ねてきてよかった!と坂道は思った。
彼の手をとって両手でぎゅっと握りしめる。
「でもエッチは共同作業なんだって!いいこと書いてあるよね」
「おまえ、いったい何読んだんだよ…」


頭痛がしてきた今泉だが、まだ本題に入っていない事に気づき、「……で?結局何が言いたかった
んだ?」となるべく優しく聞いてみた。
だが、それに対する坂道の答は更に突拍子もないものだった。

「あっうん!それで僕、何ができるか考えてみたんだけど、急に何でもはできないから、ひとつに
絞って練習しようかと思って」
「練習!!?」
「うん。あの…いつも今泉くんしてくれるよね……口で…」

ふぇらちお?だっけ?と首を傾げた坂道の幼いような表情と発言のギャップに、今泉は軽く前のめり
になった。
目を閉じ、1から10まで数えて心を落ち着けようとしたが、もう下肢に熱が溜まってきている。
半勃ちだ。カンベンしてほしい。
(おまえ、その小っちぇえ口でオレの咥える気かよ!!?)
だがそれ以前に聞き捨てならないことを坂道は言っている。今泉は脳内で音声に高速巻き戻し
をかけた。

「てか、待て!練習ってなんだ練習って!!誰と練習したんだよ!?」
今泉の剣幕にきょとんとした坂道は、やがてポンと手を打ち、「もちろん一人でだよ。主に果物とか
野菜で試してみたんだ!」と得意そうに言った。

「く…くだもの……やさ…」
「最初はバナナで始めたけど、ナスとか人参とか…ゴーヤとか…?」
「ゴッ…!!!?」
「あんまりまじまじ見たことないけど、今泉くんのおっきいもんね」

あの毒々しい緑にイボイボだらけのやたら卑猥な形をした沖縄野菜を、坂道がピンクの舌でおそる
おそる舐めたり、『ん…っ』 と小さく声を洩らしながら口に収めていく情景がリアルに脳裏に浮かび
今泉はゴホォッ!!とむせた。
ある意味、自分のモノを舐めさせるよりエロい光景ではないか。
ヤバイ、ヤバすぎる。
今度から、一人でする時は夜のお伴に使おうと心に決めるほどの破壊力だ。
ていうか、もう今さら取り沙汰しても意味ないが、完全に勃った。どうしてくれよう。


幸い、坂道は今泉のモノが立派に成長しているのも目に入ってこないようだった。
今泉も動揺しすぎて気づかなかったが、よく見れば坂道の手も唇も少し震えている。
そうか、コイツもなるべくあっけらかんと言おうとしてるけど緊張してんだよなと分かり、急に愛しさが
つのった。

震えていた唇を、ちゅ、ちゅ、と可愛らしい音をたてて下から掬うように吸ってやる。
ここを今から使うのか、と思いながら、坂道の唇を表面から裏側まで舌でゆっくり舐めまわすと、
気持ち良さげに小さく啼いた。
特に裏側が柔らかくて敏感だ。
今泉が好きな場所で、坂道が愛されると悦ぶ場所。小さな快感が二人同時に走り抜ける。

「すげー嬉しいけど、ムリしなくてもいいんだぞ?」
「……やらしー奴だって呆れてない…?今泉くん…」
「オレを気持ちよくしたいって思ってくれてんのに、呆れるわけねーだろ。エロいのも大歓迎だ」

「初めてだから…今泉くんみたいに上手にできないかもだけど…」
「オレのやり方だって上手いのかどうか分かんねーよ。おまえをいっぱい愛してやりたいって思い
ながらやってるだけだし」
「そっか…そうなんだね…」

最初は勢い込んでいたものの、やっぱり恥ずかしいし軽蔑されるんじゃないかと怖くもなった。
だが、『吸ってみな?』 と言うように口内に今泉の舌が差し込まれてきたから、興奮の方が簡単に
勝る。
自分からも舌を絡め音をたてて啜りあげれば、今泉の呻き声が直接伝わってきた。
愛しい人のその声だけでぶわっと体温があがる。頬が火照る。
同時に右手をとられ、寝間着代わりのハーフパンツの上からもう隆起したペニスを握らされた。

(あ、もうおっきくなってる。いつから…?)
ドキドキしたが、行為を始める前から今泉がこんな状態になっているのが嬉しくてならない。
探り、先端のあたりを指でまあるく何度も撫でたら、息を詰める音がして「こら、遊ぶな」と耳穴に
舌をねじ込まれた。
「あっ…ん、だめだよ…そこ」
弱点の多い坂道の身体だが、耳も特に弱い部分だ。
だがここで自分が快楽に流されてしまったら話にならない。軽く今泉を睨むと、笑いながら額に
キスをされた。

「してくれるんだろ?」と囁く声がものすごく色っぽい。
坂道は思わず股間をもぞもぞと擦り合わせてしまったが、覚悟を決めて「今泉くん、そのまま座っ
ててね」と告げた。


広げた足の間に膝をつき、慣れない手つきでハーフパンツも下着もずらした。
途端、もう完全に勃ちあがった状態のモノと顔をつき合わせてしまい、ゴクリと息を飲む。
(分かってたけど…おっきい…)
自分のと作りは同じでも、今泉のは体の大きさに合った完全に大人の形状のものだ。

触ったこともあるし手でイカせたことだってある。
毎回必ず挿入はできないから、お互いのペニスを擦り合わせてイクこともあるけれど。
目の前で見るとズシリとした重量感と熱が感じられて、練習に使っていた物なんかとは全然違う、
生きてる、今泉くんの一部なんだなぁと思った。

根元に手を添えて、そっと唇を近付ける。
ちろりと少しだけ伸ばした舌先で、先端に浮いていた雫を舐めとった。そんなに味はしない。
安心した坂道は、舌全体を使って亀頭をピチャピチャと舐め回した。
熱い。口から伝わってくる熱に頭がどうにかなりそうだ。

(口の中も…感じるから…)
口内が感じるのはキスで知っている。深いキスも互いの舌をどちらかへ招き入れたりするから、
この行為はやっぱり似ていると思った。

先端を口に含んで、歯を立てないように気遣いながら愛おしく吸う。手で幹の部分も擦りあげると
今泉が熱く湿った吐息をもらした。腹筋がぴくぴく痙攣し、先走りが増える。

気持ちいいのかな?と思った。
気をよくして口内で先端に舌を押し当て、さっき触れた時のようにまあるく撫でてみる。
「さか…みち……」
快感に掠れた今泉の声で名を呼ばれ、坂道の背筋にもぞくぞくっと溶けそうな甘さが走り抜けた。
(今泉くん…今泉くん…)
ああ、なんて愛しいんだろう。もっと早くこうしてあげたらよかった。


コイツ、どんな練習したらこんな上手くなるんだよ!?と脳内でゴーヤにいわれのない嫉妬を覚え
ながらも、間断なく襲ってくる快楽の波に今泉は翻弄されていた。
何しろやった事はあるが、口淫を施されるのは初めてだ。
こんなイイもんなのか、とねっとりと熱い坂道の口内の感触に溺れそうになる。

口の小さな坂道はずっと含んでいる事が辛いらしく、一度ちゅぽ…と音をたてて引き抜くと幹の
部分を下から舐め上げはじめた。
どんな出血大サービスだとツッコミながらも、坂道が自分のモノを舐める様子から目が離せない。

舐めている時の口内への刺激で自分も感じてしまっているのだろう。
目は潤み我を忘れたような坂道の顔つきがまたたまらない。
舐めながらたまに頬ずりするような仕草を見せるので、先端から伝った先走りが幼げな頬を汚して
いる。
はっはっと荒い息づかいと共に、「いまいずみくん…」と呼び、たまに上目づかいに見上げてくるから
その視線だけで危うくイキそうになった。

「き…きもちい…?」
「ああ…すげーイイ…じょうずだな坂道…」
「ホント…?うれし…」

褒めるように頭を撫でてやっていたが、今泉はふと坂道が股間をもじもじともどかしそうに擦り合わ
せているのに気がついた。
(ああ、勃っちまってるのか。辛抱しすぎだろ)
「坂道、そのまましててくれよ。オレもちょっと気持ちよくしてやるからな」
「えっなに……ひゃっ!!?」

甘噛みするように横から咥えていたペニスから口が離れる。
今泉の素足が完全に勃起した坂道のモノをとらえ、柔らかく足の指で揉み込むように押してきた
のだ。

「や、や…やぁん…あ、それダメ…」
手指と違って今泉も思う通りには動かせないらしく、それが却って不規則な刺激となって、坂道を
翻弄する。
とろ…と濃い先走りが下着の中で溢れ出たのが分かった。
なのに、もっともっとと今泉の足先に自分の昂ぶりを押し付けてしまう。イイ、イイ、という思いで
頭の中がいっぱいになりかける。

(あ、でもだめだ…今泉くんをちゃんとしてあげなきゃ)
下肢への刺激が少しだけ緩くなった。ほっとしながらも気持ちがよくて、坂道は腰を揺らしながら
今泉への奉仕を再開させる。

前にやってもらって気持ちよかったからと思い、頭を深く沈め、根元の膨らみを口の中に入れた。
芯のあるそれをこりこりと可愛がり、ちゅ…と吸ってから口から出すのを繰り返す。

「…ッ、それ、たまんね…」
「今泉くんがしてくれたんだよ。気持ちいいよね、こうすると」
「……そうか…どこで覚えてきたんだよと思った」
「やだな、今泉くんがしてくれた事ばっかりだよ」

自分の吐息と今泉のモノの熱さでメガネが少し曇っている。この距離なら見えるから大丈夫、と思い
メガネを外してそっち置いといてと今泉に頼んだ。
できるかどうか分からないが、ちゃんとイカせてあげたい。

ラストスパート、と思い、また先端の方へ唇と舌を動かしてゆく。
裏筋をたっぷりと舐めてあげると、先っぽからもう白濁混じりの汁が出はじめているのが分かった。
今泉の息が荒い。端正な顔立ちを感じ入ったように歪ませている。
感じてるんだ、と思うととても幸せで、ああだから今泉くんも僕にこんな事してくれるんだ…と分か
った。

「坂道…坂道…」
「今泉くん…すき…すき…いっぱいきもちよくなって…」
「オレも好きだ…」

痛いほど張りつめている今泉のペニスを、坂道は苦しいのなど意に介さぬ様子で、出来る限り深く
まで頬張ってきた。
また熱くてぬめった粘膜に包まれ、ああもう保たねーな…と今泉はぼんやり思う。
何度も何度も出し入れされる。じゅ…じゅる…と淫らな音が鼓膜を叩く。
唇が、舌が、坂道の小さくて柔らかな口全体が今泉を締めつける。
濡らされる感触。頭の芯が溶けそうだ。


坂道ももはや羞恥など吹っ飛んでしまっていた。
気がつけば片手を自分の下着の中に差し入れ、夢中でしごきながら口淫を続けていた。
何をやっているかも分からない。朦朧とする。それでも。
ただただ今泉をちゃんとイカせてあげたくて、もう感覚がなくなってきた口でじゅぷじゅぷっと音を
たてて唾液まみれにしていく。

「…ッ さかみち……も…離せ、出す、からっ…」
「……っ い、いって、くち、だして…」
「バカ、やめ…」
無理やり引き剥がそうとしたが、坂道は聞かず、もう一度口の中で強く強く今泉のペニスを吸い
上げた。

「………ッッ!!う…あ…」
一瞬目の前がハレーションを起こしたように白くなり、今泉は坂道の頭を抱くようにして、声をあげ
ながら吐精した。
ダメだと思ったところで止まらなかった。
ビュクビュクと吐きだされた白濁は坂道の口の中で終わりきらず、ぬる…と外に出てからもまだ
少し飛ばして坂道の頬を白くねっとりと汚した。

くらくらする頭と吐精の余韻からなかなか醒めない。
だが今泉はハッとなって坂道を抱き起こした。

「おい、坂道大丈夫か!?無茶しやがって!とりあえず口の中のモン吐き出せ!」
「あ…あー…だいじょぶ…なんか、なんとか飲めちゃった……」
「の!?飲んだのかよ!!?」
「うん…あんまり美味しいもんじゃないけど…今泉くんのだし…」

ふにゃ、と笑いながらそんなことを言うから、今泉は何か泣きたいような気持ちになった。
そんなにしてくれるほどオレが好きかよ、と思うとたまらない。
バカ、好きだ、かわいい、と切れぎれに呟くと、坂道は何か誇らしそうな顔で笑った。
力の入らない指先が今泉のTシャツをきゅ…と掴んでくる。


へろへろになった坂道の体をベッドの上に大事に抱きあげると、向かい合わせに自分の膝に乗り
あげさせ、深く唇を合わせた。
さっきまでこの口が自分のモノを咥えていたのかと思うと、今泉はむしろ興奮した。
無茶苦茶に蹂躙されていた内部を清めるように、優しく丁寧に舐めてゆく。時おり何ともいえない
味がするのは、自分の出したもののせいだろう。

「ごめんな、放ったらかしで辛かっただろ…今してやる」
「え…あっ…今泉く……ふぁ…あ…」

下着の中に手を突っ込むと、そこはもう濡れそぼってぐしょぐしょになっていた。
だが握り込んだ坂道のものは射精にまでは至っておらず、まだ硬く芯を残している。
今泉の大きな手に包まれると、そこは待ち構えていたかのように悦んでビクビクと震えた。
焦らすことなどせずに、揉みくちゃにする。
自分も口でしようかと考えたが、今の坂道にとっては早くイカせてもらう方が楽だろう。

「おまえのココ、オレの手が好きだな」
「あ…すき…いまいずみくん全部すきぃ……」
「またいっぱい溢れてきた…もうヌルヌルだ…やらしくて可愛い…」
「だって…だって今泉くんに触られたら僕……へんになる…よ…」
「オレもおんなじだ、安心しろ」
さかみち…と愛しげな声。耳を甘く噛まれ、舐められて高い声で啼いてしまう。

「あ…あ、や、いい…いいよぉ…もっと……」
もっと高いとこまで連れてって。
彼の綺麗な長い指に自分の昂ぶりを押し付けると、全部を包みこまれ、いやらしい音をたてて
しごかれ揉まれ気が遠くなる。
指先が鈴口をまるく撫でている。さっきの僕のマネしてるんだ、と気づき、頭の中が欲情の色に
染まった。

目をあげると恋人が優しい笑みを浮かべていて、キス…とねだったらすぐに叶えられた。
どちらも最初から唇を開いて、先に舌だけを触れ合わせる。
「ふ…あぁ…」
ぬる…と今泉の舌に絡めとられ、彼の口内へと導かれた。濡れていて熱い場所。もっと近づきた
くて彼の首に腕を回し抱きつく。

はっはっと零れる息、汗、籠る空気、ぴたりと寄り添っている今泉の体温、彼の指を汚す自分の
体液。
舌をきゅうっと吸われると、急激に射精感が高まった。
(ああ、もっとこうしてたいのに)
口に出してないのに何か伝わったのだろうか、今泉が笑い、「いくらでもしてやるから我慢すんな、
いっぱい出せよ」と言った。

今泉くん…とうわごとのように呼び、坂道は彼の肩口に頭をもたせかける。
もう溶けあってしまいたい。後で、もっと奥まで彼は入ってきてくれるだろうか。

坂道が漏らした体液でぬめりきったペニスの先端を、今泉の手がまるく包みこみ、何度も何度も
強弱をつけて愛されると、坂道の口からはすすり泣きのような声があがった。
いやらしいって分かっているのに、今泉の手に導かれると簡単にぐずぐずになってしまう。

「あ、あ、もう…だめイク…いっちゃ……」

とどめ、とばかりに、今泉の空いた方の手が坂道のTシャツに潜りこんできて、今日一度も触れて
いなかった乳首をやわやわと押しつぶした。
すっかり忘れていた部分からの甘い刺激に喉が鳴る。
あっあっあっ…と間断なくあがる声が止められない。いじられる度に快感が連動し、増幅する。

「気持ちい…それきもちいいよぉ…」ともう忘我の表情で泣きじゃくる坂道に、ペニスと胸と舌へ同時
に激しい愛撫を加えてやれば、今泉にぎゅうっと抱きつき、やがて細い身体がビクビクッと震えた。

達しながらも、激しい愉悦をうまく逃がせないらしく、溺れるようにしがみついてくる。
今泉の掌を坂道の精が叩き、新しくぐしょぐしょに濡らした。
指の間からもとろっ…と零れるそれが自分の手首を伝っていくのを見て、今泉は満足げに微笑む。



泣いているのか喘いでいるのか分からない坂道をあやしながら、今泉は顔にたくさんキスをしてや
った。
あまり一度に強い快楽を与えられると、坂道はたまにこうなってしまう。
(今日はオレのために頑張ってくれたから、自分も盛り上がりすぎちまったんだな…)

気にはしないと思うが、今のうちだ…と頬を汚していた自分の精液もきれいに舐めとって証拠隠滅
しておいた。
すごく不味かったがそこはもう仕方がない。

「坂道、大丈夫だから落ちつけ。オレが怖かったか?」
「今泉くんはこわくないよ…なんか…途中から気持ちよすぎて訳わかんなくなって…」
「うん、そうだな。オレもすげー気持ちよかった。頑張ってくれて嬉しかった」
「ほ…ほんと…?」
「ほんとだよ」
でもまァ、今度してくれる時はもーちょっと手ぬいてもいいぞ、と今泉は笑う。肩をぽんぽんと叩くと、
坂道は徐々に落ち着いてきたようだった。


「あ…あのね、今泉くん」
「うん?」
「僕、最初に今泉くんに口でしてもらった時、すごくビックリして…こんな汚いとこ口で舐めさせたり
したらダメって思ったんだ。だけど…」

ぴったりと抱き合うと互いの鼓動が違うリズムで感じられる。セックスは相手に触れることの延長線
上にあるんだと二人ともが感じる。
触れ合う度に、この人の事をまたひとつ知る。

「今日自分でしたら…嬉しくて大切で泣きたくなったよ…好き好きってそれしか浮かばなかった…」
「坂道……」
「僕、今泉くんの恋人にしてもらえて幸せだなぁ…」

バカ、それはオレのセリフだ、と言いながら今泉は自分を愛してくれる人をつよく抱きしめた。
なんだかな、いつもたくさん好きだと言っているつもりが簡単に追い越される。不思議だ。
そういうヤツだから好きになったんだけどなと思いながら、今泉は坂道の身体をとさっとベッドに横た
えた。


「あ、あの最後まで…しよ?今泉くんまだ全然し足りないよね」
「こんなへろへろになってて無茶言うな。オレは挿れられないと不満だなんて思わねーよ」
「そう…?じゃ、じゃあもう一回お風呂はいる?」

風呂に一緒に入れば洗うついでに今泉に触ったりして、もう少し満足させてあげられるかもと坂道は
考えた。
だが、覆いかぶさってきた今泉は、大変に人の悪そうな笑顔を浮かべこう言った。

「おまえ、こっからはマグロになってていいぞ」
「えええええええ!!?」
「してもらえたのはもの凄い感動だったが、オレは全然触り足りない。大丈夫だ、おまえが怖くない
ように優しく緩くずーっと可愛がってやるからな。後で風呂にも入れてやる」

ひえええ…と後ずさりながら、今泉くんが僕を気持ち良くさせるのが好きってホントなんだなと坂道
は実感した。
(今泉くんも研究熱心だなあ…)

でもまあ、仕方がない。
愛したがりの恋人のしたい事をさせてあげたい。
それが自分の望みでもあるのだから、折れるに決まってる。恋はほんとにどうしようもなくバカみたい
に甘い。


笑いながらお互いをぎゅっとして、仕切り直しのキスをした。
今度はたくさんたくさん僕に触っていいよ、そう心で呟いて坂道は自分を今泉にあけ渡す。
(今日は僕も結構がんばったもんね)
うんうんと頷くと、坂道はちゃんと納得の上で素直にマグロになることに決めたのだった。