海堂へ



急に手紙なんか送って、驚かせてしまっただろうな。すまない。

だけど色々考えているうちに、何か目に見えるような形できみに気持ちを伝えたくなったんだ。


勿論メールもできるけど、俺は元々自分の字で書く方が好きだったし、手紙の方が何か重みって
いうか確かさみたいな物があるような気がするんだよ。




ここのところ、俺はずっと不安定だった気がする。

理由は簡単だ。海堂と距離ができてしまうから。一緒にいられる時間も減ってしまうだろうから。

だけどきみも不安なのだと分かっていたから、必死でそれを悟らせまいとしていた。






自惚れてるかもしれないけれど、海堂が俺を好きでいてくれるのは分かってるつもりだ。


きみはたまに、自分の言葉が足りない事を気にしているみたいだったね。
でも俺はいつも嬉しかったんだよ。
海堂が、俺を一生懸命、それこそテニスと同じぐらいちゃんと好きでいようとしてくれていたから。



きみの「好き」は真面目で真摯で、何よりいつも俺を暖めてくれていた。
俺がどんなにきみを必要だと思っているか、言葉ではとても言いあらわせないぐらいだ。



好きだよ。
幸せって目に見えるものなんだな。海堂を見るたびにそう思う。







距離ができても、会える時間が少なくても、俺達は大丈夫だなんてかっこいい事を言いたい
ところだが、海堂はもてるし、やっぱり心配だよ。


あ、浮気されるとか思ってるわけじゃないから。
それは海堂の性格的に無理だしね。
(俺については心配無用だ。海堂以外に興味ないよ)



…そうじゃなくてさ、本気できみの心を動かすような人が現れるのが、俺は怖かったんだ。
例えば越前のようにね。


気づいてなかったみたいだけど、彼はもうずっと海堂が好きだったよ。
でも俺には越前の想いも、きみの気持ちも、どうすることもできないから。





こうやって文字にしてみると、自分のすべき事がはっきりと見えてくる。


俺がやらなきゃいけないのは
越前や他の誰かに嫉妬したり、きみの気持ちを疑うことじゃないんだ。


ただ自分と向かい合い、畏れを殺し、
誰よりも大切に思うきみの隣に立つのにふさわしい奴に、いつかなりたい。


いつも海堂に選んでもらえるような自分でありたいと、つよく願う。





不安が消えたわけじゃないんだけれど、今はとても静かな気持ちで、これを書いている。


きみが俺にくれたもの。
ぶっきらぼうな言葉と優しさ。繋いでくれた手のぬくもり。
ふいうちで見せる笑い顔。

寂しがりの俺を、寂しくさせまいと、きみはいつだって一生懸命になってくれていたね。




ありがとう。

ちゃんとありがとうって、言ったことがあっただろうか。

好きだと言う以上に、今はきみにたくさんたくさん、この言葉を告げたい。


ありがとう。俺のことを好きになってくれて。大切にしてくれて。

きみを好きになって良かった。心から、そう思うよ。






明日は卒業式だ。

ここのところ色々動揺してて、海堂に会いに行くどころかメールも電話もできなくてごめん。
だけど、卒業祝いに俺のワガママを聞いてもらえないかな。



夏に二人で花火を見た公園を覚えてる?ほら、あの高台にあった小さい公園だよ。

明日の朝、卒業式の前に、あの場所で海堂に会いたい。


急にこんなこと言ってごめん。でも甘えてるかもしれないけど、来てくれるって信じてる。


待ってるから。




乾貞治