「なあ、まだできるから、俺のこすってくれるか?」
一瞬なにを言われたのか分からず、声につられるように見れば、恋人が困ったような堪えるような顔をしていた。
ええと…?と律はぼんやり考える。
まだ一回目の余韻が抜けておらず、頭がまともに働かない。

体の汚れをさっと拭ってもらい、狭いベッドに座って抱きしめられていたのだが、当然双方とも裸なので、触れ
あっている事自体がたまらなく気持ちいい。
肌が熱く、お互いの心臓の動きも速くて、霊幻の掌は悪戯するように腹から腰を撫でおろしてくる。
ん、と小さく身じろぎして、律は恋人の胸に唇を押し当てた。
くすぐってえよ、と笑う吐息が耳をくすぐり、気をよくしてそこに浮いた汗をちろりと舐めとる。彼の味がした。

セックスをした後は、本当にどこもかしこも相手にしっとり吸いつくようで、頭がバカになる。
バカになるけど、素直にもなれるのだ。
それを発見した時から、律はこの行為が好きになった。
自分はかなり理屈っぽく頭の中で考えてばかりいる。せっかく両想いになれた霊幻にどう接していいのか分か
らない時も多々あって、もっと自然になれないのかとその都度へこむ。
彼は人の気持ちを汲み取るのがうまいし大丈夫だろうけど、もう少し 『ちゃんと好きですよ』 と伝えられたらな
と思ったりもしていた。

だから初めて愛し合った時、怖いし少し痛かったりもしたけれど、この溶け合うような感覚は律を歓喜させた。
両方が心から好きでないとこんな風にはならないし、彼の余裕のない顔だって見られる。
だが経験不足で年がいかない自分に霊幻はけっして無理はさせない。それを少し、いやかなり不満にも思って
いたのだ。

(まだできるからこすってってなんだろ……?)
夕暮れ時の柔らかい茜光をあびながら、律は今言われたことを考えてみた。沈思黙考。
ぼうっと霊幻の顔を見ているうちに、やっとその意味がじわじわ浸透してきた。心臓がすごい勢いで暴れだす。
つまりはもう一回したいから、霊幻のものを勃たせてほしいというお願いだった。
律はショックだった。いや、してほしいと言われた行為のことでは断じてない。
もはや律の体で霊幻が触れたことのない部分などなかった。手で指で、体全体で、唇や舌や口の中で。
なのに自分は恋人の性器を愛撫してあげた事もなかったのだ。
なんという職務怠慢。しかしいきなり触っていいものなのだろうか。わからない。変な汗がでてくる。


(あ、やべえな。どん引きさせちまったか…律、固まってんぞ)
一回目の余韻にひたって、自分の腕に抱かれトロトロしていた律があんまり可愛いのがいけない。
つい、もう一段階エロいことをさせたくなってしまった。
いや既に、人に知れたらお縄になるの確定なエロい事なら山ほどやってしまったが。このいたいけで潔癖そうな
律に、あれもこれもと教え込んだのは自分だ。

どうしてこんな恋に落ちたのか我ながら不思議だ。だがなんと律も自分を好きだと言ってくれた。
ここまでで一生分の運を使い果たした気がする。
そして自分は辛抱しきれずにこの子を抱いた。律も望んでくれた事だが、きっと最初は怖かっただろう。
だから大事に、なるべく負担をかけず気持ちいいと思わせてやりたかった。
まあそう言いながらもスケベ心が抑えきれないのは男のサガだ。さてどうフォローすっかな…と思う。

「あーいや冗談!冗談だからな律。そんな固まんなくていいぞ」
「口の方がいいですか」
「は…?」
「手より口の方がいいですよね。だってしてもらった時その方が気持ちよかったし。上手くできるか分からない
ですけど、僕がんばりますから!」

超絶必死な顔をする律と度肝を抜かれた霊幻は、素っ裸で10秒ほど見つめあった。
柄にもなく動揺した霊幻は、額に手を当てながら、いやいや待てよちょっと待てお前…と呻く。
「あのな!ホップステップをすっ飛ばしていきなり大ジャンプしようとすんじゃねーよ!」
「どうしてですか!?霊幻さんはいつも僕にしてくれるじゃないですか!」
「いやその、子供にそんなことさせるわけにはだな…」
「子供と毎回こんな事やってる人が今さら何言ってるんですか」

ご無理ごもっともな事を言われ、霊幻は「だよなー…」と律の肩に顔を埋める。好きな匂いがした。
律の心がセックスで開放的になると、このえも言われぬ香りが肌からたちのぼる。
僕は、霊幻さんがしてほしい事がしたいです…と可愛いことまで言うから、早くもムラッときた。

「律、お前やじゃねーの?コレ触ったり口でしたりすんの」
「他の人間のなら問答無用で踏み潰してるとこですけど、あなたのはやじゃないですよ」
「ん、そっか。でもイキナリお前に口でされると瞬殺でいっちまうからよ。最初は手ぇ使ってしてくれるか?」
霊幻は律の手をとるとちゅっちゅっと口づけ、指をゆっくり咥内に含んだ。先を優しくちろちろとねぶる。
言い合いで我に返ってしまっていたが、そのぬるりと湿った感触に律はぶるっと身を震わせた。
体の先端はすごく感じる部分だともう知っている。
たったこれだけで、頭の中がチョコレートみたいに溶け出す。はやく触らせて、と目線で霊幻に訴えかけた。

そのまま両方の手が下肢へと導かれる。そうか僕は霊幻さんより一回り手が小さいから…と合点がいった。
(片手だけじゃ気持ちよくしてあげられないな)
大人のずっしりと重量のあるペニスを握りこんだ時、律はその熱さに耳まで真っ赤になった。
ああこんななんだと思う。さっきまで自分の中に受け入れていたくせに、今初めて触るなんておかしい。
そろそろと動かすと、うあ…とたまらない感じの声が聞こえた。

「……ッ、りつ…もっと力いれても平気だぞ…」
「ど…したらいいか、教えて…霊幻さんの好きな…とこ」
「一人でする時イイとこあんだろ…?俺に試してみろよ」

一人でする時と言われても向きが違うんだけど…と律は妙な事を考えて当惑した。
だいたい、せっせと自慰をするより先に霊幻とこんな関係になってしまったので、一人でするのは嫌いだ。
この人の手や唇や体温に慣れたぜいたくな自分が、そんなので満たされるわけないのに。

左手で幹の部分をしごきながら、上手に動く右手を使って熱心に愛撫を施した。
カリの部分をこすり、裏筋にも指を這わせると、はあ…っと間近にある霊幻の唇から熱い息が漏れる。
「りつ…上手だな…先っぽのとこももっとして」
「き…気持ちいいですか…」
「おう最高……きもちいいし、嬉しい」
上手いはずがないのに少し顔を上気させそう言ってくれる霊幻に、律はたまらない気持ちになった。
手の中で力を取り戻していく熱塊に眩暈がするほどの高揚をおぼえる。
先端のくぼみをくじくようにたまに指を押し込みながら、くるりと円をえがき何度も愛していると、律の指先がトロ
トロと暖かく濡れた。
よく 『もういっぱい濡らしてんな』 とからかわれ腹がたったけれど、相手が感じてるのは嬉しいんだと知る。

霊幻が漏らしたぬめりをペニス全体に塗りこめるようにすると、愛撫がスムーズになった。
クチュクチュとまるで泡立つような音。
慣れてきて大胆になった律は、根元の袋もちいさな掌で揉み込み、気持ちよさげな声を引き出す。
(霊幻さん…色っぽい顔してる…)
ぞくぞくした。全部さわりたい…と、器用なのが取りえの細い指で余すことなくその形をなぞり追いかける。
完勃ちになったモノの熱量がすごい。それにあてられて興奮した自身も緩く勃起しているのが分かった。
はぁ…はぁ…と、されている方みたいな乱れた呼吸も本当は律のものだった。

霊幻さん…とぼやけた視界に映る彼を見れば、急に噛みつくようなキスをされた。
いつになく性急な口づけに、だが抱き返す事のできない律はたくさん欲しいと思って、はく…と口をひらく。
手はけんめいに彼の屹立を愛しながら、もうひとつ好きなものが自分の咥内に入ってきたのに昂った。
「ん……は、ぁ…もっと…中、に…」
最後の言葉ははいってきた舌に阻まれて濁る。さっき彼のモノを口でしたいと言った。
それを思い出すと、まるで疑似行為のようで、霊幻の舌に吸いつき音をたてて必死にしゃぶった。
いやらしい水音、混じる味。こんな事をできる、したいと思う相手がここにいるなんて信じられない。
背筋を甘い衝動が走り抜けていく。

「律…さっきしたから柔らかいだろうけど、もっかい慣らすぞ…」
ペニスを愛してくれる慣れない手つきと律の潤んだ眼差しに、もはや霊幻は相当煽られていた。
食べたい、に近い乱暴な欲求のままキスをすると、両手を使っている律は上手く力が入らないらしく、その口腔
はただ受け入れるがままの熱い器官となった。

(いやこいつ、絶対フェラする時の事考えてんだろ!)
無垢というのはおそろしい。深いキスが、口淫や果てはセックスそのものとも似ていると本能で悟っている。
受け入れる時はただぽっかりと口をあけていたのに、律は霊幻の舌を味わうように舐めていた。
口の中を占めている柔らかなものを、ちゅ…ちゅく…と音をたてて吸い、口端から呼吸を逃す。
その時に一緒に唾液が零れた。苦しいだろうに陶然とした表情。エロすぎてまた自分のモノが嵩を増す。

傍に放り出されたローションではなく、霊幻は薬のような物を一粒、シートから取りあげた。
それを見た律が、「や…やですそれ…」と消え入りそうな声で言う。
これは体内に入ってから熱で溶けるタイプの潤滑剤なのだが、座薬みたいに思えるのかいつも嫌がる。
(いや、指突っ込んで慣らすのはおんなじだろうに…)
そうは思うが、夕方の光よりも赤らんだ律の頬がたまらなく愛しい。そこにチュッとキスを落とした。

「ローションはべたべたしすぎて嫌がるし、律はワガママだな〜」
「ちがっ…それ、なんか恥ずかし…から…」
「恋人が恥ずかしがるとこが見たいんだろ。分かってくれよ男のロマン」

逃げようとする腰をグイと引き寄せ、指先で後孔を探りあてた。ひくひくと霊幻の指に吸いつくようだ。
ほくそ笑みながら、そこに黄色っぽい半透明のカプセルをねじ込む。
ひゃ…っん!と律が細い首をすくめた。構わずそれをそうっと中へと進めていく。驚くほど熱く柔らかい。
ぜったい傷つけたりしねーから…な?と囁き、ついでに耳たぶをべろりと舐めあげた。
あ、あぁん…はいってくる…と蕩けた声。いつも冷静な顔のこの子にこんな声をあげさせているかと思うと、手が
お留守になっているにも関わらずまた自分のペニスがぐっと張りつめる。

「ほら、今律のいいトコの真上にあんだろ。わかるか?」
「あ…いやだ…いやそこで溶かしちゃやだぁ……」
「りーつ、いいからやらしいとこ俺に見せんだよ。俺にだけ、見せていいんだ」
「ふぁ…、あ、あ、…溶け……どろって…なか…」
「ん、溶けたな。律ん中、すげえ熱いからすぐトロトロになった」

カプセルが溶けた瞬間、どろりとした物が律の泣きどころに襲いかかった。身悶えしどこかへ逃げようとする。
だがどこにも行けない。ぞわっと背筋が粟立つ。それが快感だとはっきり分かる。
怖い、こんなことを覚えてしまうのが急に怖くなる。
視界に涙が膜を張った。だがすがるように見たその先で霊幻は優しく笑っていた。
彼の長くて器用な指が、潤滑剤をまとい緩く律のいいところを行き来している。それに声もなく感じた。
あっという間にもう一本足され、少し広げるように動かされると、あ、あ、…と甘い喘ぎが止まらない。

ほら、俺のももうちょい頑張ってくれよと促され、もうとっくに完勃ちのペニスを揉みしだいた。
にちゅ…にちゅ…と音をたて、彼の一番弱い部分を擦りたてている。
霊幻も律の中の敏感すぎて苦しくなりがちな場所を、脳が溶けてしまいそうなやり方で撫でてくれる。
嬉しい、と律は感じた。
愛し合うってこういう事かもと思う。急所ともいえるところを互いに空け渡せるのが嬉しい。

今度のキスは穏やかなものだった。
触れ合わせ、微笑みながら小さく離してはまた追いかけ、自分とは違う感触の唇を堪能する。
互いの呼気はひどく熱かった。興奮しているくせに緩やかな交情。
霊幻の舌がノックしてきて、軽く開かせると唇の裏の柔らかい部分を丹念に舐めてくれた。
ああ…あぁ…れーげんさん…それすき…と小さく訴えれば、知ってるよと笑われる。
気持ちいいな律…?と言われ、うんと頷くと唇が離れたから、もっととねだり腫れそうなぐらい甘く吸われた。
おかしくなる。好きでいっぱいになる。


そろそろか…と思い、霊幻は枕元にあったゴムに視線を走らせた。
律それ取ってくれるかと言うと、紅潮した頬のまま律はいやですと首を振る。こんなの要らないですと言う。
「ダメだって。前に一回生でした時、後始末大変だったろーが。俺は楽しいだけだったけど」
「でもいやです。そのまんまがいい」
「りーつ」
「だって今まで触ってたから。霊幻さんの、触ってたまんまで感じるのがいい…」
「お前なあ、どんな殺し文句だよそれは」
誰が教えたんだそんなの。俺か、とぼやけば、あなたしかいないでしょと律はぷいっとそっぽを向いた。
(あ、やべえな。あんまりグダグダやってるとへそを曲げちまう)

じゃあ後で恥ずかしいって風呂の中で泣くなよと念を押すと、ちょっと間を置き「はい」と頷いた。
これはもう言質をとった者勝ちだ。冷静になる前にすみやかに事に及ぶべし。
「あとついでにさ、さっき『霊幻さんがしてほしい事がしたい』って言ってたの、それもいいか?」
「何するんですか?」
「それはまあ挿れてからのお楽しみ」

初夏とはいえずっと裸では肌寒いはずなのに、霊幻の部屋には二人分の熱気が籠っていた。どちらもうっすら
汗をかき暑いぐらいだ。
律を横たわらせ、細い脚を折り曲げ持ち上げるようにした。
挿入されるところを見るのが恥ずかしいのか怖いのか、目をつぶり横を向く表情が初々しい。
たまんねえなと霊幻は唇を舐め、軽い律の体を自分の方へ少し引きずる。もうトロトロなはずの後孔に先端を
押し当て、傷つけないようにつぷり…と入り込んだ。

「うわ…やっべ…!中すげえぞ律…ッ」
「ん、やだ…きつい……なんでさっきよりおっき…無理ぃ…」
「こら煽んな、まだ半分もはいってねーから…あとあんま締めんなって…!」
「熱い…やけどしちゃ…」
「いや熱いのお前ん中だから、なんでこんなきゅうきゅう吸いついてくんだよ」
「…って、触ってた、の、まんまだから……中で…」
「ああもうお前な、可愛すぎて俺暴走すっからやめてくれ」

隘路を分けてゆっくりじわじわと霊幻のモノが律を侵食する。自分の中が彼のかたちになっていく。
のぼせきってとろんとした頭。苦しげな気持ちよさそうな霊幻の顔だけを見つめる多幸感。
バカになってもいい瞬間。それが嬉しくてたまらず、律はいい…いい…いっぱい…とうわ言のように呟く。
腰が熱を孕んでいる。中をきゅうきゅう締めているのが自分でも分かって、痛いかもと心配になり大きく呼吸して
緩めてみた。

(僕の体、すごいやらしい……)
内側がじんじん疼き、さっきした時と全く違う。隔てるものなく挿れられて気持ちが昂っているのか。
大きく張ったペニスがぐっと一番深くまで届き、奥をトントンと押す。
その瞬間、律の先端からとろっと粘液がこぼれ出た。こんな格好で貫かれて、全部受け入れて、気持ちがよくて
気持ちがよくて狂いそうだ。

「よし、じゃあな律、このまま自分でやって見せろ」
「…………は?」
「ほらちゃんと握れって。放ったらかしで辛かっただろ?」
呆然とする律の手に先の濡れた自分自身を握らせる霊幻新隆が憎い。信じられない発想だ。何をどうしたら
こんないやらしい事を思いつくのか。

「い…いやです!」
「え〜律くんさっき、俺がしてほしい事がしたいって言ったよな。あれ嘘だったんだ」
「最低!!バカ!エロオヤジ!霊幻さんなんかともう絶対しない…!!」
「ふぅん、俺はまあこのまんまでもいいけどな」
「やっ…あぁん…、揺ら、すな……回さないでそこ…っ」

霊幻に挿入されたまま腰を揺すられ、律は惑乱の淵に叩きこまれた。黒髪がぱさぱさとシーツの上で音をたて、
大きな涙の粒がこぼれる。
痛いわけでも苦しいわけでもなかった。
だいたい自分のペニスは固く勃起したままだ。感じているのは丸分かりで、だがそれを霊幻に上から見下ろされ
ている事が死にたいぐらい恥ずかしかった。
(見られてる…見たいって言ってる…僕がするとこ)
繋がったまま自慰を見せろと要求され興奮する自分が浅ましくて嫌なのに、霊幻は黙ってそんな律を見ている。

涙のたまった黒い瞳も、汗の浮いたまだ未発達な薄い体も。性感でぴんと立ち上がった乳首も。
シーツをもどかしげに掻く指も。しどけなく開かれた脚も。苦しいほど固くなった屹立も。
そして霊幻のモノを受け入れてきちきちに広がった小さな孔まで、全部全部見られている。
夕方の光に照らしだされたその痴態が、霊幻の目にどれほど美しく淫靡に映っているか律は知らなかった。
ただ、その視線にゾクゾクと震え、恋人の願いをかなえたい思いで徐々に頭がいっぱいになってくる。

「……は、あぁ…」
先刻まで霊幻のモノを握っていたその手で、律はゆるゆると自分自身をしごき始めた。
痛いほど視線を感じる。恥ずかしい、怖い、気持ちいい、ごちゃ混ぜの意識がやみくもに手を動かさせる。
当たり前だが成人男性のペニスを握った後では、自分のはいかにも小さく頼りなかった。
だが霊幻が言ったとおり、二度目に突入してからずっと放置されていたそれは、待ちわびたようにトロトロ雫を
こぼす。普段一人では得られないような快感に律は惑乱した。
「あっん……あ…、うあぁ…っん……」
れいげんさん…れいげんさん…と頭の中で彼を呼びながら、己のものとは思えない濡れた声を出す。

(いやいやいやいやヤバすぎんだろ……俺がやらせてるんだけどな!)
ああもうバレたら完全にお縄だぜこりゃ…と思いながらも、ゴクリと息をのみ律の痴態を見つめる。
いやらしいとしか言葉もないようなそれ。
潔癖でプライドの高いこの子のことだ。
ちょこちょこっと触って、もういいでしょうと突っぱねられるとばかり思っていたのに。
だが、霊幻がしてほしい事をしたいというあの言葉は本心からのものだったらしい。
もしかすると、自分があまり何もできてないと悩んでいたのかもしれない。
大きく負担がかかっているのは律の方なのに。思いを伝えるのが下手くそで、だがそこが愛しくてならない。

抜き差しはせずにゆるゆると腰を揺らしてやった。中を擦ったら快感がすぎて今は辛いだけだ。
だから霊幻の動きは律のイイところを軽く押すようなものだったが、効果はてきめんだった。
「あっ…それ…ふ、あぁっ……!」
内からこみあげる悦さと自分でペニスを擦りたてる悦さが一緒になって律を襲う。
それがきゅう…っと受け入れた霊幻のモノを締めつけて、二人は同時にこらえきれないような声をあげた。

「律やらしーなー…そんなに感じちゃって可愛い…」
「やだ、言わない…で…お願……」
「律が感じるとな、俺も気持ちいいよ。だからもっともっとしていいんだぞ。俺を気持ちよくしてくれよ」
「れーげんさん…も…?」
「おう。そのまま律がイくとこ俺に見せて」

自分でしてるけど、これは自慰じゃなくてセックスだ。終わった後だって寂しくなんかならない。
(ちゃんと出来たら、きっと抱きしめてもらえる…)
律が自慰が嫌いなのは上手く快感を引き出せないのもあったが、虚しさに耐えられなかったからだ。
キスもセックスも、好きな相手と触れ合う延長線上にある。
そう教え込まれた。そう理解していた。だからこの人がいて下肢だけでも繋がっている今は、それでどうしようも
なく幸せになれた。素直で簡単な身体。

「んっ…ああっ…、ふぅ…んん…っ」
懸命に自身を擦りあげた。張りつめた裏筋あたりがびくびくと細かく痙攣している。
ここに前、霊幻のモノを擦りつけられた時の感触を思い出し、かあっと体の熱があがった。
乾ききった唇を舐める。熱かったそれで先の先までくじかれた記憶に犯される。お互いの漏らした愛液が混じり
合い、そのぬめりで怖いぐらいに感じた。
それを思い出し、自分の先走りをまとった指でややきつくそこを刺激すると、ぶわっと射精感が高まった。
痩身がしなる。大きな感情の波といっしょに涙が目の縁に盛り上がる。

「れいげんさ…れーげんさん…いきそ…!」
「見ててやるから怖がんな。あー律ほんとエロくてかわいいな…。中もとろっとろだぞ?」
「はぁっ……ん、ん、あっ…なんか…くるっ…!きちゃ…」
自分で腰を揺らして、もどかしかった内からの刺激にはずみをつけた。が、いいところに霊幻のモノを当てようと
して、ゴリ…と強く抉ってしまう。
想定外の刺激に目の裏がチカチカッと白く明滅した。

「あっ…!!?あっ、や…やぁ……うあぁぁん…!!」
身をよじらせ、泣きじゃくりながら律はとうとう精を吐き出した。両手で押さえていても、下肢を持ち上げられて
いるせいで、胸に腹にと白濁が飛び散り、果ては頬までも白く汚す。
ひどく淫らでありながら清冽なその様に、霊幻は深い感嘆の息をもらした。
ほとんど気をやっているくせに、ぐすぐすとすすり泣いているのが愛しくてならず、体重をかけないように気を
つけながら律の体にゆっくりと覆いかぶさる。

「律いい子だ、よく頑張ったなあ。すげえエロかった。もう俺当分オカズに困んねーわ」
「バカ、もう最低…!」
「なあ、俺をギュってしてくんねーの?もしかして怒ってんのか?」
「違います…手が、よごれてるから……」
「ああ、んなのどうでもいいじゃねーか。ほら」

気にならないと証明するように、霊幻は律の顔に散った精液をべろりと舐めとる。
目の前にいるのに触れないのは辛かったから、律は重なり合った男の厚みのある体に腕を回し、無我夢中で
抱きついた。まだ放ったものでぐちゃぐちゃの手が彼の大きな背中を汚す。
でもセックスなんて全然きれいな行為じゃないのだ。
そればかりを気にしていたら、好きな人を満たしてあげられない。きたなくたっていい。
下肢は繋がったまま、細い脚も腰に絡めるようにして、隙間なくぎゅっと抱きしめ合った。
ああ…とちいさな安堵の声が、律の唇からもれる。
煽られ続けて霊幻は相当切羽詰まった状態だろう。だが、目を閉じてほんの数秒のインターバルを味わった。

「も…動いて…いいですよ」
「お前今イッたからすぐは無理そうだな」
「僕はもう充分気持ちよかったです…次はあなたを…」
「ん…俺もさすがに限界だな」

つかまってろよ?と潤んだ目に言い聞かせ、霊幻は蕩けそうなぬかるみからズルっと己のモノを引き出した。
律の喉が鳴る。噛みつきたくなるような白さ。
ずっと挿ったままだったから、ポッカリと喪失したように感じるのだろう。
そこを埋めるように強く突き込んだ。ああっ…!!と泣き声をあげるくせに、律はきつくしがみついてきた。
少しも離れたくない、という動作。
それは中も同じで、ローションの助けだけでなく霊幻の意識を飛ばしそうな動きで内壁が絡みついてくる。
(ああ、コイツ本当に俺のことが好きなんだな…)
こんな時なのに胸が詰まった。だから律は、こんなまっさらで綺麗な心と身体を自分のような男にくれたのだ。

「律…好きだ…お前が好きだよ…」
「……れ、げんさん…?」
「世界一お前を好きなのは俺だって、それだけは謎の自信あるからな」
「も、やだ…こわい…頭へんになる……」
「嬉しいんだろ?分かってるって。お前が上手く言えなくてもちゃんと伝わってるから」
なんにも心配しなくていいんだぞ、と諭すと、律はくしゃりと泣き笑いのような表情になった。

肉の薄い臀部にだが確かにあるまるみを、霊幻は両の掌で掴み、揉みほぐすようにしながら何度も奥深くまで
己を突き入れた。律の半開きの口から間断なく甘い声があがる。
「あっ…あ、あ、やぁ…っ、深、い……」
深いと言いながら深くしているのはむしろ律の方だ。
霊幻の体を抱き、脚を腰に巻きつけ、抜けるペニスがイイ所をこすりもう一度底を突いてくれるのを待ちわびる。
また緩く勃ったモノは霊幻の動きに合わせて腹で擦られ、そこをトロトロに濡らしていた。

限界が近付いた霊幻は、奥の方まで挿入してから小刻みに中で突く動きに変えた。
グチュッグチュッと粘るような音に二人の鼓膜が犯される。獣じみた息を荒げながら、惹かれるようにふいに律の
薄い胸に顔を伏せた。
「…えっ?あっ…!だめです、ちょ、そこ一緒にしたらっ…!」
我に返りかけた律の抗議には耳も貸さず、霊幻は固く尖ったままの小さな乳首にじゅるっと吸いついた。
手加減はなかった。
「やだあぁぁぁ…っん…!!」
悲鳴と共にぎゅうっと中を絞られた。霊幻は奥歯をギリッと噛みしめ、ギリギリ何とかイくのだけは踏み止まる。

「律…律…今悦くしてやるからな…」
気が狂いそうになって、絡めた脚をバタつかせ逃げを打とうとするのに、全然許してもらえない。
唾液をつけたのかもう一方はぬめる指で摘まれ、軽く上下に揺すられた。ヒッ…と声がでる。
こんな小さな部分なのに、すぐ芯が通ったのが感じられた。脳まで震蕩するような錯覚。
濡れた熱い舌で捏ね回され、つつかれ、またじゅるじゅると吸われた。
もうだめ…と気が遠くなりかけた時に、軽く噛まれ、ピリっとした痛みが走る。歯と舌で挟まれている。
痛……と涙声で言うと、痛かったか?と嬉しそうな顔をされる始末だ。
そして、噛まれたところを慰撫するように優しく優しく舐められると、律はもう本当に何も考えられなくなった。
気持ちよすぎて、腰だけが細かく震えている。

少しだけ噛んだ乳首をピチャピチャ舐め回していると、甘いあまり形をなさない声だけが部屋を満たした。
すき…すき…とうわ言のように止められないでいる唇。
律はもう自分は達かなくてもいいという風だったが、俺がこの可愛い体を放置して終わると思ってんのかね…と
霊幻は笑い、ひたすら細やかな愛撫に没頭した。
二度目にはいって初めて、律のモノも大きな手でしごきたててやった。
濡れそぼったそれに、ああちゃんと勃ってんなと安心した時、また悦ぶように中がきゅんと窄まって、快感の波が
徐々に大きく目前に迫ってきた。
れいげんさんキスして…とねだられ、啜り合うような口づけを恋人と交わす。

ズキズキと疼くペニスを本能のまま内壁に擦りつけると、「ぁ…あ…そこがいい…そこかけて…?」と律が甘えた
声で啼いた。
淫蕩なその声音がじんと性感に響き、霊幻の背から首にかけてが一気にざわっと粟立つ。
ゾクゾクゾクッと身が震える。律の大きな黒い目がほしいほしいと訴えかけてくる。
(う、わ…!もってかれる!!)
思う間もなく、ひくひく痙攣しつづける律の中に飛沫くような勢いで精を放ってしまう。
身体の一部が抜け落ちるような激しい衝動に、霊幻は律をきつく抱き、堪えようとした。が、できない。
「ッ…あ、やべ…止まんね…」
我慢していた時間が長かったせいか、もう終わりだろと思うのに間断なくとぷっとぷんっと出続けている。
律の中を際限もなく濡らしていく自分の欲望。
「…あ…あぁっ……れーげんさ…なか…あついよ…」
律が無我夢中で抱きつき、細い腰を擦りつけながらびくびくんっと震えた。また腹が濡れる。
もうほんの少ししか出ないくせに、足指までもきゅうっと丸め、深く深く感じながら、今まで知らない高みへと昇り
つめたようだった。


意識を手放してしまったらしい律の上に、ハァーッと長い溜息をつきながら、霊幻は覆いかぶさり弛緩した。
汗がじきに冷えてしまう。
はやく風呂だの何だの用意しなければならないのだが、絞り取られた気分だ。
むしろ無邪気にすら見えるその頬を指でつつき、翻弄されてんな〜俺、と思う。
(こいつ、モテるんだっけか。ガードは固いのに脇が甘そうだし、俺が気をつけとかねーとな…)
絶対誰にもやらねーぞと、誰にともなく変な対抗意識を燃やす。
眠る律の鼻先にチュッとマーキングのようなキスを落とした。
まあ何というか、端的に言わせてもらうのなら自分は、この子のことをめちゃくちゃに愛していた。





「よっこらせ、と」
どろどろのぐちゃぐちゃだったシーツも新しく替え、脱ぎ散らかした服も片付いた部屋は、先ほどまでの情交が
ウソのような静謐さだった。
もうすっかり日は落ちていた。部屋を彩っていた夕焼けの茜色もとっくの昔に消えている。
風呂から運んできた律の体を、霊幻は大事にそうっとベッドに横たえた。

霊幻が出したものの後始末であれからまた大変だった。律は恥ずかしさのあまり猫みたいに暴れるし、お前が
そのまま挿れてつったんだぞ〜と指摘すると怒って口をきかなくなった。
扱いにくい恋人が黙りこくったので、まあいいかと押さえつけ趣味半分でとことんキレイにしてやったのだ。
もう色んな意味で疲れはててしまい、指一本も動かしたくないらしい。
服が皺になるから、今は霊幻のぶかぶかのTシャツを着せられている律は、だが拗ねていても可愛かった。

笑いをこらえつつ、隣にごろんと横になり「何か食うか?腹へっただろ」と尋ねると、少し考え首を振った。
「家で食べないと怪しまれるんで、いいです」
「そっか」

秘密にしないといけない関係だ。
もし万が一バレでもしたら、責めを負わされるのは霊幻一人なのだ。そして二度と会えなくなるだろう。
だから慎重な上にも慎重でいないと、と律はふわふわした己の心を戒める。
本当は、せめて一晩でもここに泊まれたらどんなにいいだろうとよく思う。
時間が惜しかった。あんな濃密な行為の後だ。ここを出たらどれほど寂しくなるだろうか。

(霊幻さんも、寂しいと思ってくれるかな…)
拗ねているのもバカバカしい。律は彼の胸に頭をもたせかけた。
指が前髪をかき分け、額に幼い子にするようなキスが落ちてくる。愛しいとそれだけで伝わってくる仕草。

「なあ、車借りるから、来週はどっか外に出かけねーか…?」
霊幻は律の髪を撫でながら、思いきってそう言った。
自分たちは15も年が違う。この子が何を好きなのか分からない。一緒に遊びに出たって楽しんでもらえないかも
しれない。だが知ろうとしないでいいとは思わなかった。

だいたいこの部屋に籠ってセックスばかりしているのも何か違う気がする。
この子は自分の恋人だから。
青空の下で、陽の当たる場所で笑うところが見たかった。
たとえ大っぴらにイチャイチャできなくても、大切なんだと伝え続ければ、この臆病な子供はいつか信じてくれる
という確信めいたものはちゃんとある。

いやか…?ともう一度聞くと、「そんなわけないです、嬉しいです」と律は吐息のように小さく笑った。
「ここんとこお家デートばっかだっただろ?」
「まあ確かに。ちょっと僕らエッチな事ばかりしすぎたというか…」
「誤解すんなよ。俺は律の体だけが欲しいわけじゃねーからな」
「知ってますよ。あなたが恋人らしくしてやりたいって思ってくれてる事ぐらい……」

最初は、ここが行き止まりでもいいと本気で思っていた。
この小さなアパートの部屋が、この人の腕の中が、袋小路でどこへも行けなくたって構わないのだと。
だけど先行きは見えないのに、彼は自分の一回り小さい手をとるのだ。どこかへ連れて出ようとする。
それは、恋が叶った時ですら短い関係だろうと決めつけていた律にとって、予想もしない幸せだった。
どんなに年が違っても、恋には平等の責任が伴う。今また握り込まれたその手から、逃げるな離さねーぞと彼の
言葉や思いが響いてくる。

「デートは嬉しいんですけど、外に出ちゃうとあなたに気軽に触れないから…」
「お、かわいい事言うじゃねーか律。じゃあ朝から出かけて、早目にここに引き揚げて来ようぜ」
「それなら…大丈夫です僕も。連れてってください」
「よし、どこ行きたいか考えろよ」
「僕はあなたの運転が心配ですよ…はやく自分で免許とりたい…」
「お前なあ…俺はずっと無事故を誇ってる優良ドライバーだぞ」
「事故なんか起こすのとても不可能な速度でしか走らないって聞きましたよ」

目的地には何とか辿りついてくださいね、と言う律と顔を見合わせて笑った。
机の上に光沢のある小さな紙袋が置いてあるのを思いだした霊幻は、視線だけを流して確かめる。
中には真新しい携帯電話が一台はいっていた。
帰りに渡したら律はどんな顔をするだろう。心が浮く。二人にとって新しい秘密だ。
(秘密ったって、しんどくない嬉しい秘密もあるだろう?)

帰る時間には起こしてやるからちょっと寝とけと律に言うと、案外素直に頷いた。
幼い頬に伏せたまつ毛の影が差す。
俺も寝落ちしちゃマズイかと思い、霊幻は自分の携帯のアラームを設定してから、律をゆるりと抱き込んだ。

枕元に置かれた携帯には、もう律の番号が新しく登録されていた。
次の日曜にはふたりきり、遮るものなど何もない、どこか遠くて広い広い場所へ行くのだ。