「オッサン……」

呼びかけた声は、自分で考えていた以上に不安げな響きをまとっていた。

 

それにちゃんと気づいたのだろう。

源泉の指が甘やかすように、アキラの頬にかかった髪をさらりと優しく梳いていった。

「心配か?オイチャンはお前に悪いことなんかせんだろうが」

 

それはどうなんだ、という疑念が一瞬アキラの脳内に渦を巻く。

今現在の自分が置かれている状況は、『悪いことをされている』とは言わないのか。

 

だがそんな事を考えていられたのも、ほんの一瞬で。

源泉の手が脚をゆったりと撫で始めると、アキラの意識はすぐにその感触の方へとさらわれた。

 

 

太腿の内側の柔らかい部分を掌が這っていく。

これからアキラに与える激しい行為は全て、愛しく思っているからだと伝えてくるその動き。

目隠しをされていても、明るい照明の下に自分の肢体がさらされているのが、布越しに感じられた。

 

テーブルに座らされた自分がどんな格好なのか、想像しただけでアキラは震えた。

下肢からは下着もズボンも剥ぎ取られてしまったし、パジャマの上はかろうじて腕にひっかかっているだけだ。


相変わらず視界も閉ざされている。

先刻と違って怖いと思う気持ちはなかったが、地に足が着かない状態が心もとない気がした。

 

 


源泉に担がれ物置から運び出された時、

アキラは単純にベッドへ行くのだと

思っていたようだ。

 

だが移動時間は非常に短く、

そこがどこなのかはすぐに察したらしい。

 

隣の部屋といえば、

当然キッチン以外にありえない。

 

固くて冷たいキッチンのテーブルに

座らされた時は、

むしろ驚きで声も出ないといった風情だった。

 

(…まあ、それも仕方ないかもしれんな)

 

源泉は、そもそもあまり奇をてらった

セックスをする趣味がない。

 

ましてや、最初に抱いた時のアキラは、

まっさらもまっさらな身体だった。

 



誰にも触れさせたことのなかったその肌を奪い、快楽を教え込んでいく過程は、

行為以上に源泉を楽しませたが、同時にアキラを怖がらせないようにと心を砕いてきたのも本当だ。

 

それまでは、人とまともに接することすらしてこなかったアキラだ。

他人と身体を繋げるのも、我を忘れて悦びに溺れるのも、心には負担がかかるはずだった。

今夜はそういう意味で、難易度の高い行為を強いている自覚はある。

ただ念入りに愛してやれば、いずれこの身体がほころびるであろう事も、男には分かっていた。

 

 

「アキラ。いい子だから、足、開いてみな」

「いや…だ……」

「そんなんじゃ、オイチャンも可愛がってやれんだろう…?こんなに張り詰めて…辛そうだ」

 

甘い声で唆すように言うと、源泉は指先で、蜜を溜めたアキラの屹立をピンとはじいてやった。

脈打っているのが分かるような性器は、先端から新しい熱い雫をトロトロと溢れかえらせる。

アキラは堪えかねるように、自分の足に爪を立てながら頭を振った。

 

「ふぁ…ッ、あ、あ…っ、源泉…」

「こっちのアキラの方がよっぽど素直だな…してほしい、してほしいって泣いてるぞ」

「バカ…言う…な……ッ」


瞳を隠してしまっているのが残念だ、と源泉は思った。

 

 

普段は冷たいような色を湛えているアキラの蒼眼だが、行為の最中はひどく雄弁だ。

溶け出しそうにしっとりと潤んでは、ねだるように源泉を見つめ返してくる。
触ったら本当に熱いのではないかと思うような、艶めいた青。

 

その眼に哀願されると、あっという間に火が点いてしまう自分に、源泉はいつも苦笑したくなった。

年長者の沽券にかかわるので、アキラには絶対教えてやらない。

だが、簡単に煽られているのは、いつだって自分の方なのだ。

 

(…ったく、俺もいい年なんだがなあ。覚えたてのガキかよ……)

 

ほろ苦く嗤いながら源泉は汗をかいているアキラの膝をゆっくりと撫で、掌で割った。

当然抵抗してきたが、グイと力を込めて広げ、すぐに自分の身体を割り込ませてしまう。
もう足を閉じられなくなったアキラは、悔しそうに唇を噛んだ。

 

「コラ、唇切れちまうぞ。噛むんじゃない」
親指で優しく下唇を撫でさすってやると、赤く染まったそこは柔らかく開いて、切なげな吐息を吹きかけてきた。

 

熱い、熱い感触。アキラが欲情しているのをハッキリと突きつけられる。

 

たったそれだけの事で自分の下肢にズキリと疼きが走ったのを自覚して、源泉は低く唸った。

 

「…お前さん、責任取れよ」

「……なに…言ってんだ、オッサン…」

「俺をここまで煽った責任取れ、って言ってんだよ」

 

訳の分からないような事を一方的に言われて、アキラは一瞬混乱した。

だがその隙を逃さずに、源泉の指が中心に絡みつき、吐息が敏感な場所へと吹きつけられる。

 

「……んっ…オッサ…ああ……ッ!!」

 

快感を頭で理解するよりも先に、

アキラの喉からは悲鳴のような嬌声が断続的にあがった。

体温がいっぺんに2度ぐらい上がったと思えるほど、

 

肌が火照る。

 

未だ吐精に至っていないせいで、

痛いほど張りつめていた屹立の根元を手で支え、

源泉は先端に溢れる蜜をちゅうっと吸いあげた。

日焼けもせずに白いままの太腿の辺りが、ビクビクッと痙攣する。

 

一旦唇で拭われたものの、

アキラのそこは与えられた刺激に激しい悦びを感じ、

あとからあとから透明の液を零しはじめた。


源泉に躊躇はなかった。

 

浅く先端を含むと、アキラの愛液と自らの唾液の

区別がつかないぐらい甘く舐め回す。

 

ピチャ…クチュ…クチュッ…といやらしい音が部屋に響く。

 

舌先でしゃぶられ、時折つよく吸われると、

アキラは頭の芯がまっ白になるような快楽に襲われた。

 

「あぁ…ふ…っ、あ、もと…み……」

 

 

どう考えたって口で触れるようなものではないのに、源泉はいつだってこうして念入りに愛してくれる。

単なる快楽以上に、そんな源泉の気持ちが嬉しくて。

 

羞恥はやむはずもないが、アキラは口戯を施されるとひどく乱れてしまうのが常だった。



グチュリ…と聞くに堪えないような音をたてて、源泉は一度アキラのものを口から出した。

ほう…っと息をつこうとしたアキラは、次の刺激に目が眩みそうになる。

 

「んぅ…っ……ンッ…だめ…だ、それ…」

「アキラ…」

 

健気に震えながら快感を待つアキラの性器を、源泉の舌が根元から先端へツーッと舐めつたってゆく。

ザラリとした質感の舌が、まとわりつくような感触でアキラを唆した。

歯を食いしばってみても、何の役にもたたない。

 

「あ……っ、ふ…あ……ヘンになる…っ源泉…」

「ヘンじゃないだろうが。かわいいぞ…すごく」


この愛撫は、視界を封じ込まれたままの

アキラには泣きたくなる程の羞恥を

感じさせるものだった。

 

源泉の舌がねっとりとたどる様子で、

自分の欲望がどんな形をしているのかが

 

明確に分かる。

 

それを煌々と明りのついた下で見られて

いるのかと思うと、たまらなかった。

 

(全部…見られてる、

源泉に…見られて……)

 

本来は食事をする場所で淫らな行為を

受け入れ、身悶えている自分の姿。

 

 

 

 

目隠しをされていても、肌を灼くような強い視線だけは

不思議なほどハッキリと感じている。

 

「あ…あ……ッ」

 

アキラは自分の下肢に顔を埋めている源泉の髪を指でかき乱し、喘いだ。

見た目に反して案外柔らかい髪を梳くようにすると、その感触すら快感としてはね返ってくる。

 

裏筋の部分を舐め回しながら、源泉の濡れた指先はアキラの後孔を探り当て、慣れた手つきで撫でさすった。

 

「ン……」

「ああ、蕩けてんな…怖くないからラクにしてろ、アキラ」

 

固い蕾を一枚一枚ほぐすような丁寧さで、源泉の指はアキラの中へと侵入した。

それでなくても感じやすい身体は、視界を封じられているせいか、内側がひどく熱くなっている。

 

ぬめりを纏った指で浅い部分を何度もぬるぬると愛撫した後に、傷つけないようにゆっくりと根元まで挿し入れた。

 


「ン……ッ あ…オッサ…もと…み……」

指を沈ませると、アキラの唇からはひっきりなしに声が漏れはじめた。

だが、苦痛を訴えてはいないと分かるから、源泉は指を抜き差しし、同時にアキラのものをまた口に含んでやる。

 

強張っていた身体は上気し始め、時折見上げると、匂いたつような表情でアキラは首を振っていた。

 


節の高い指は気がつくと2本に増やされてしまっていた。

アキラの内を行き来しながら、一番感じる場所にまるで偶然のように当たっては、泣き声をあげさせる。

内からこみあげた快感を素直に受けた前は、源泉の口腔でしゃぶられ、息もできない。

 

熱くて熱くて熱くて、たまらなくて。

アキラは右手で源泉の髪をかき乱し、左手で自分を含んだままの顎のあたりを手探りで触った。

ザラリ、とした無精ひげの感触。

 

自分を抱いているのが誰なのかという事を、触れられるだけでなく触れて確かめると。

 

それだけのことでもう、弾けてしまいそうになる。

 

「ア…ア……ッ…オッサン…もう俺……っ」

蕩けおちそうな声で訴えてきたアキラの腹部がビクビクと痙攣しているのを見て、源泉はアキラの性器を喉奥まで銜えなおした。

舌を絡め、先端を口蓋に擦りつけるようにしてやりながら、指先で感じる部分に強く刺激を与え、促す。

 

「アッ…あ、あっ、ぅんっ……や、っああぁぁぁ……ッ!!」

 


もう自分がどこから快感を

得ているのかも判らぬままに、

アキラは源泉の口腔に白濁を勢いよく吐きだした。

 


ようやく達した安堵からか、放出は長く尾を引き、

男の身体を挟んでいた脚がビクビクと震える。

 

だが源泉は出されたものを嚥下した後も、

嫌がる様子もなく、

まだアキラのものの先端を吸っていた。


トクン、と最後の白い滴りが零れ出たが、

それまでもきれいに舐めとられる。


「は…あ……」


くったりと力が抜け崩れかかるアキラの身体を、

強い腕が受け止めて、ぎゅっと抱きしめてくれた。

 

 

この部屋に来た時に、源泉がシャツを脱ぎすてる衣擦れの音を聞いた。

 

だから抱きあう身体に遮るものはなく、素肌が触れ合うその感触はたまらなく心地のいいものだった。

源泉の匂いに包まれると、節操のないことに下肢にはまたずきんと疼きが走る。

 

(オッサン…オッサンは…まだよくなってないよな…)

 

ふいに不安になったアキラは、抱きしめていたたくましい身体にそっと掌を這わせてみた。

力の入らない手で背中の隆起を撫で、男の腰の辺りにもおずおずと触れる。

コラ、いたずらすんな、と源泉がくすぐったそうに呟き、アキラの耳朶に甘く噛みついてきた。

 

「…あのなあ、お前のそんな色っぽいとこ見てて、俺がフツーでいられるわけなかろうが」

ジーッとジッパーを下げる音がやけに生々しく部屋に響いて、アキラはふいに目元を染めた。

同時にそっとテーブルの上に寝かされ、いやがうえにも興奮が高まっていく。

 

「オッサン…」

「ここで抱いたら、お前さん背中痛いかもしれんな。ベッドに行くか?」

 

もう、源泉にも大して余裕はないだろうに。

慈しむようなその問いかけに、アキラは反射的に頭を振っていた。

 

「べつに…いい、大丈夫だ……それに」

「うん?」

「…お仕置きなんだ、あんたの好きにしたらいいだろ……」

 

その瞬間、源泉がハァ…と困ったようなため息を漏らしたのが耳元に触れた。

 

「お前なぁ。それは天然か、天然だよな…」

誘ってるとしか思えん、とワケの分からない事を呟きながら、男はアキラの脚を持ちあげ上から覆いかぶさってくる。

 

…その、重み。それが愛しかった。

目隠しの下でアキラはさらに目を閉じ、激しい鼓動ごとそれを引き寄せ、かき抱く。

 

胸にこみ上げるのは、歓喜としか説明しようのないモノだ。

この男に出会うまでは、こんな行為に意味があるなどと考えもしなかったのに。

今は、『もっと近くに来てくれ』と、心が子供のような駄々をこねる。

 

そんな自分を嫌だと思わない自分はもう救いようがない、とアキラは嗤った。

 

身体も心も、持ち主の言うことなど聞かない。

……この男にいかれてしまっているのだ、とうの昔に。

 

柔らかく蕩けて蠕動する部分に、熱く濡れたものが擦りつけられ、やがて丸く押し広げられた。

 

「あ………ッ」

最初の違和感はどうあっても消えないのだろう。

少し苦しげに寄せられたアキラの眉間に口づけると、身体が傾き、一瞬の抵抗のあとに太い部分がズプリと飲み込まれた。

 

アキラの内側はひどく熟れていた。いつにない熱さに、侵入と同時に攻め立てられる。

 

 

「……ッ、く…そ…」

 

あやうく持っていかれそうになり、

源泉は奥歯を食い締めるようにして暴走を抑えた。

それでも全身から汗が噴き出すのを感じる。

 

自分のものに絡みつく内壁の感触にやられ、

思わず奥まで一気に侵してしまいたくなった。




だが、二人分の重みを受けたテーブルがギシッと音を

たてた瞬間、こんな場所で抱いてしまっている事に

罪悪感がこみ上げてくる。

 

痛みを与えてはならない。

 

 

 

親指と中指でアキラの胸の突起をそっと摘みあげると、人差し指でその先端をクリクリと転がしてやった。

途端にアキラの唇からは、しどけない声が零れ落ちる。

 

「あ…ぁ…オッサン…それ…」

「アキラはこれが好きだろう…こうされると、いつもトロトロになるもんなァ…」

 

摘まれて剥き出しにされた先端をいじめられるのは、余程イイらしい。

「……っん…ん……っ」

アキラは吹きこまれるいやらしい言葉すら耳に入らない様子で、しきりに腰を揺すっている。

自分の腹に濡れたアキラのものが擦りつけられるのを感じ、源泉は満足げな顔をして少し笑った。

 

「もっと奥まで入りたい…入っていいよな?」

「ム…リ……ふ、ぁ…」

「ムリじゃないだろうが。いつも上手に飲みこむくせに……ココで」

 

アキラの片足を肩に担ぐようにすると、体勢が変わり、上から貫くような格好になった。

そのままグッと力をこめて、根元まで押し込む。

最奥まで達した瞬間、内壁がキツく締めつけてきて、二人は嗚咽のような声で互いの名を呼んだ。

 



浅くて激しい呼吸音と、

汗にまみれた身体。


ドクドクと耳につく自分自身の

心臓の音。

それでもより一層深く混ざり合いたい

という願いひとつに、

心が灼きつくされる。



「あ…つい……」

「そりゃ…こっちのセリフ、だ……

すごいぞ、お前ん中…」

 

「や…動いたら…ッ 

あっ、あ、ぁ…オッサン…ぅあ……っ」

 

「俺の、しゃぶってんのが分かるか…

いやらしいな…アキラ……」

 

低い声で揶揄しながら、

ゆっくりと抜いてまた奥まで侵す。

 


ずぷ、ずちゅ…と粘膜がこすれ、繋がっている場所からの濡れた音が互いの興奮をさらに煽った。

 

感じる場所を小刻みな律動で突き上げ、擦りたててやると、

アキラは普段からは想像もつかないような淫らな声ですすり泣いた。

 

「あ、あ……っく……も、もすこし…ゆっくり……オッサン…ッ」

「嘘つけ。こんな濡らしといて、ゆっくりもないだろうに」

 

ぴったりと密着した身体の間で、昂ぶりきったアキラのものからは粘液が溢れ、源泉の腹を汚している。

ギシ、ギシ…と、テーブルが重みに悲鳴を上げたが、相手を貪るのに必死な二人の耳には届かなかった。

 

「………て」

「ん…なんだ、アキラ…もっかい…」

 

吐息と大差ないぐらい小さな囁きを、こちらもほとんど余裕のない状態ながら、源泉は拾いあげた。

中をかき混ぜるように腰をゆるく回し、アキラの頬を撫でながら、問いかける。

 

もう全部が敏感になりすぎているのか、唇や指で施される愛撫にも、上手く言葉を紡げないようだ。

それでも湿った呼吸音と共に、やっとという風情でアキラは言った。

 

「はずして…くれよ、目隠し……」

「やっぱ、怖いか…?」

「怖くない……でも…顔…見ながら…が、いい…」

 

震える声で訴えた言葉に最初に反応を見せたのは、内側を緩やかに突いていた源泉自身だった。

 

それがグッと滾りを増し中を広げられる感覚にアキラが喉を鳴らすのと。

乱暴に思えるほどの勢いで目隠しをしていたタオルがむしり取られたのが同時だった。

 

真上から注がれる蛍光灯の白い光に目が眩む。

目の周りがまだ濡れていて、目隠しにも吸い取れないほど自分が涙を零していたのだと知った。

思わず、目の縁を手で擦ると、それをやんわりと押し留められる。

やめとけ、目が腫れる、と囁いた相手の顔を、ようやくはっきりと視覚することができた。

 

(………源泉)

 

未だ激しい行為の最中だというのに、優しい眼差しがアキラの全てを包みこんでくる。

鼓動が跳ねたのを知られたくなくて顔を背けたが、大きな掌でもう一度男をまっすぐに見つめさせられた。

 



「…きれいだな」

「………?」

「きれいな色だ…隠すなんて、

オイチャンが間違ってたな」

 

瞼にそっと口づけを落とされて、

自分の瞳のことを言われているのだと初めて

理解する。

 

…たまらない気持ちになった。

 

いつも、いつだって、

冷たい色をした自分の眼よりも余程きれいだと

思っていたから。

 

この暖かな色の瞳を。

 

どう答えていいか分からずにやみくもに首を振ると、

また新しい涙が目から零れ落ちる。

 

 

 

困ったような笑みを浮かべた唇が、アキラの形のいい唇にそっと重なってきた。

 

触れるだけですぐ離れてしまったが、これは今日最初のキスだ、とアキラはぼんやりと思う。

途端に痺れるような甘さがこみ上げ、中に在る源泉の欲望を羞じらうようにヒクヒクと食んでしまっていた。

 

「アキラ……ッ」

瞬時に欲に煙った源泉の表情を見つめながら、アキラは腕を伸ばし、男の唇を迎えにいった。

少しカサついた唇を滑らかな自分のそれで味わい、その感触にゾクリと震える。

 

「っ…ふ、…ぁ…」

身体の底からどんどん熱が押し上げられてくる感覚。源泉の腕につよく抱かれた。

与えられるものでアキラの世界は満たされ、今にも決壊してしまいそうになった。

 

薄く唇を開き、相手の舌が侵入するのを許す。

煙草のせいで少しぴりっとした独特の味のする舌に絡め取られ、熱い口腔を探られる。

 

「は…ぁ……もと…み…」

それだけであちこちがじん…と疼くのに、感じる場所を源泉の切っ先に激しく擦られ、息もできない。

 

 


快感に腰を跳ね上げながら、

アキラは絡めた舌同士を擦りつけるようにした。

望みを叶えるように、源泉がちゅ…と

甘く舌先を吸ってくれて、その濃密なキスだけで

意識を飛ばしそうになる。

 

上も下も犯されて、

それでもまだ足りないというようにキスを繰り返し。


吐息が完全に混ざり合い、

自分と相手の境目がどこかももう分からなかった。

 


固いものに支配され、その脈動に煽られながら、

いつしかアキラは自分がどこにいるのかすら忘れた。



からからに乾いた唇を、

源泉が舐めて潤してくれる。

そして唇を触れ合わせたたままで、

小さな声で淫らにささやいた。

 

「イケよ…かけてやるから、ここに」

 

 

 

その言葉の意味を頭が理解したとき、アキラは理性という理性が壊れる音を聞いた。

 

言葉どおりに一番感じる場所に自らを擦りつけながら、少し苦しげな顔をしている源泉。

この男が、確かに自分で快感を得ているのだと。



そう、痛いほど感じた瞬間に。

 

 

「あ、あぁっ!や、や…もと…み……ぅあ…あ、ああぁ……ッ!!」

 

自分から何かが抜け落ちるような激しさで、アキラは絶頂を迎えていた。

源泉の腹をぐしょぐしょに濡らしながら、自分の中にも熱い迸りを感じ、身体中がビクビクと痙攣する。

 

「あぁ……あ…ふ、ぁ…」

「…ッ、アキラ……」

「もと…み……ぁ…」

 

どこかへ流されてしまいそうで、必死に男の背にしがみついた。

それでも狂おしさは薄れず、腕で、脚で、身体中で離れまいとする。

二人分の早い鼓動と、内側を灼くような熱さに、アキラはまた新しい涙を零した。

 


暖かな掌がそれをぬぐってくれたように思ったが、それを確認することさえできぬままに、意識は闇へと沈んでゆく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…うーん、さすがにやりすぎたか。てか、何をやっとるんだ、俺は…」

 

完全にブラックアウトしてしまったアキラからひとまず身体を離すと、やっと理性が復旧してきた源泉は呻いた。

 

 

途中からはもうアキラを抱くのに夢中で、

いったい何が原因でこんな事に

なったのかすら忘れていたのだが。

 

(お仕置きだっけか…

しかも、たかがメシをちゃんと

食わなかったとかの…)

 

長い睫毛が頬に影を落している、

いたいけなアキラの寝顔を見ながら、

深く嘆息する。

 

だいたい自分は出張帰りで、

まだ荷物すら解いていないのだ。

 

「……明日、目ぇ覚ましたら、

怒ってんだろうなぁ、お前さんは」

 

困り果てたように、無意識に頭を掻く。

 

だが、意地悪をしたのは自分だ。

いくらアキラがいつも以上に

感じていたと言ってもだ。

 

 

せいぜい明日はご機嫌を取らなければ、と源泉は厳かに心に誓う。

 

(それにしても、ここで食事する時、アキラがどんな顔するかは見物だけどなァ…)

 

悪趣味な事を考えながらも、源泉は汗に湿ったアキラの髪を指で梳き、今さらのように安らいだ寝顔へと小さく告げた。

 

「アキラ、ただいま」

 

 

どんな愛の言葉よりも甘い一言を恋人に与えると、源泉はアキラの身体をきれいにしようと考えて、

ゆっくりとした足取りでバスルームの方へと歩いていった。