「うっわ、何する…!?」
    「お前、ガードが固いのか無防備なのかよく分からんなあ」


    気がつくと、ひょいと抱え上げられ、机に座らされていた。

    アキラは自分を他人に好きなように扱われるのは大嫌いだ。
    今だって怒ってもいいのに、とそう思う。


    なのに目の前にある暖かい色の目を見返すと、自然な感じにふっと
    身体の力が抜けた。



    「アンタ…好きなのか、その……」
    自分を、と言い切れずに口ごもったアキラを見て、源泉は案外照れ
    くさそうな顔つきになった。

    「俺だって困ってるんだぞ、なんたって先生と生徒だしなあ。だが」
    「……なに」
    「もう決めた。お前は誰にも譲ってやらん。幼馴染くんにも、あの
    イヤミな理事長にもな」



    自惚れるな、と言いたいところだった。
    この男はまだ自分の気持ちを一度も聞いてくれていない。


    なのに、「分かってる」とでも言いたげな顔で、源泉はアキラの腰に
    スルリと手を回した。

    大きな手が制服を持ち上げ、素肌を撫でるのにビクッとしたが、
    それでも逃げなかった。


    (あ……キスされる)

    望みが叶えられるのだと分かるから、逃げたりしない。
    それが自分の告白になるのだろうと思い、アキラは目を閉じた。



    周囲が誰かを好きだと騒ぐのを見ても、どんな気持ちか分から
    なかった。

    なのに、今はこの冴えない化学教師ばかりを見つめている自分が
    いる。

    (好き……なんだ、きっと。アンタのこと)


    病気みたいに鼓動が速いのも。
    目を閉じる前に見た、笑ったかたちの唇に触れたいと願うのも。

    全部全部そのせいだ。



    自分に触れる、源泉の大きな掌の熱を感じていた。
    カーテンの隙間からもれる、オレンジ色の陽光に照らされる。


    放課後のざわめきが外から響くのを、他人事のように聞きながら。



    アキラはやがて自分に触れてくる甘い運命を、ひっそりと待ちわびた。